今回は、フレット交換ご希望でお持込いただいた、クラプトンモデルのストラトキャスターのリペアのご紹介です。
どのリペアも同じことが言えるのですが、特にメイプル指板のフレット交換は状況をよく見極めることと、それをしっかりお客様に説明することがとても大事になってきます。
それは指板面に塗膜があるために、作業工程がローズ指板などの表面に塗膜がないフレット交換に比べ、リペア工程が複雑化し、こちらから提案できる作業方法も複数あるからです。
費用、仕上がり(見た目もサウンドも)、ともに僕の提案とお客様のご要望をしっかりとすり合わせるためにいつも以上に、楽器の状態の診断、作業方法のご説明はじっくり丁寧にやらせていただいております。
そして今回はご相談の結果、指板面の修正なしで行いました。
理由としては
・今回はネックの状態が良く、トラスロッドの効き幅も理想的なので指板面の修正が不要
・打ちかえるフレットのサイズは元のサイズと同様
という条件を満たしていたからです。
不要な塗装工程は、リペア費用を増やし、作業期間も長くなってしまいます。(もちろん、指板の修正が必要な場合はしっかりと説明させていただき、ご納得していただいた上で作業させていただきます)
例外としてヴィンテージの楽器等で、弾き込んで塗膜が擦り減った指板面をどうしてもそのまま残したい場合も同様の方法で行う場合がありますね。
先ずはカッターを使ってフレットと塗装を分離させます。
こちらのモデルは製造工程の都合上フレットの根元に少し塗装が乗っかっています。
そのまま無理にフレットを抜こうとすると大きく塗装がチップしてしまいます。
フレットを抜くと塗膜がない分、一段下がっています。
ここに新しいフレットが収まります。
わずかでも汚れや木部のチップしたものが残っていると、その上にフレットが乗ることになり仕上がりに大きく影響してくるので、溝も含めて丁寧に掃除します。
このような具合です。
フレットを打ち込んだ後はサイドにはみ出した部分を削ります。
大体この時にエッジの塗装が少し剥げてタッチアップするのですが、今回は塗膜がやや厚めだったことも手伝って塗装を剥がすことなく終えることが出来ました。
ただ削っただけではバリが出ていて、痛いのでフレットのエッジを丸めていきます。
塗膜を傷つけないように慎重に行っていきます。
傷つかない様にマスキングテープ等で保護すればいいのでは?と思われるかもしれませんが、そうするとテープの厚み分フレットの根元のバリが取れないのでマスキングなしで行います。
磨きまで終えたものがこちら。
続いて、新しくなったフレットに合わせてナットも交換します。
溝に合わせて底面にアールをつけたナットを製作します。
ナットも完成し、全体を調整して完成です。
スムーズに演奏できるの様になったのは勿論の事、
元のフレットよりもきつめのものに交換したのでネックの剛性も高まり、鳴りもタイトになったとのことでした。
単純に演奏面だけでなく、サウンドの方向性も変化させることもできるのです。(変化させないこともできます!)